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麻布中学校の「ドラえもん問題」の解答と意味について

このブログはあまり時事ネタを扱うブログではないのですが、「ちょっと気になった」ため取り上げてみます。

今年の麻布中学校の入試問題に、次の問題が出たことが話題になっています。

麻布中の入試で「ドラえもんは生物として認められません。なぜですか」と出題。エリート達震え上がる – NAVER まとめ

(問題)右図は、99年後に誕生する予定のネコ型ロボット、「ドラえもん」です。この「ドラえもん」がすぐれた技術で作られていても、生物として認められることはありません。それはなぜですか。理由を答えなさい。

(解答)ドラエもん自身が成長したり、子孫を残すことができないから。

そして特定は避けますが、一部ではこの問題に対して次のような批判の声が上がっています。

  • この問題はひとつの答えが出ない問題である。
  • この解答は科学的に妥当ではない。
  • こんな問題を出す学校は馬鹿である。

しかし、受験問題として考えればこの問題はひとつの答えが出る問題です。そこで、まずはこの問題の答え方を説明します。その上でこの解答が科学的に妥当であるかを簡単に検証し、最後はこの問題を出すことに意味はあるかについても考えてみたいと思います。

「ドラえもん問題」の答え方

この問題は知識問題ではなく読解問題であるという点が重要です。先にあげたNAVERまとめでは省略されていましたが、 麻布中学校の入試問題には「ドラえもん問題」の前に次のような説明文があります。

説明文

この中で、生物の定義として次の3つが書かれています。

特徴A:自分と外界とを区別する境目をもつ。 特徴B:自身が成長したり、子をつくったりする。 特徴C:エネルギーをたくわえたり、使ったりするしくみをもっている。

これをふまえて問題を考えると、ドラえもんは特徴Aと特徴Cにはあてはまりますが、特徴Bにはあてはまらないことが分かります。したがって解答は特徴Bの反対「自身が成長したり、子をつくったりすることができないから。」になり、模範解答とほぼ同一になります。

このように、受験問題として考えれば「ドラえもん問題」はひとつの答えが出る問題であることが分かります。

この解答は科学的に妥当か?

次に、「ドラえもん問題」の解答は科学的に妥当なものなのかについて簡単に検証してみます。なお、これは出題者だけが考えるべきことであり、解答者は考える必要はありません(少なくとも試験中には)。

生物の定義を調べてみたところ、デジタル大辞泉では次のように定義されていました。

動物・植物・微生物など生命をもつものの総称。細胞という単位からなり、自己増殖・刺激反応・成長・物質交代などの生命活動を行うもの。いきもの。

また、Wikipediaでは次のような記述がありました。

生物が無生物から区別される特徴としては、自己増殖能力、エネルギー変換能力、恒常性(ホメオスタシス)維持能力、自己と外界との明確な隔離などが挙げられる。しかし、この区分は例えば、ウイルスやウイロイドのような、明らかに生物との関連性があるがこれらの特徴をすべて満たさない存在までを区分することが出来ない。このことから言っても、生物と無生物を完全に区分することは困難なことである。

これらを見ると、特徴Aは「自己と外界との明確な隔離」、特徴Bは「成長」「自己増殖能力」、特徴Cは「物質交代」「エネルギー変換能力」と一致していることが分かります。しかし、「刺激反応」「恒常性(ホメオスタシス)維持能力」については記述がありません。またWikipediaに書いてあるように、ウイルスについては辞書の定義でも区分することはできません。

以上をふまえて簡単にまとめるなら、「ドラえもん問題」の解答は辞書的定義には沿っているが科学的に定まったものではない、といったところでしょうか。

このような解答を認めるかどうかについては、人によって意見が分かれると思います。しかし中学受験の問題として考えるならば、私は認めてよいと思っています。もしこれを認めないとしたら、学びの過程が複雑になりすぎてしまうからです。

この問題を出すことに意味はあるか?

最後に、この問題を出すことに意味はあるかについて考えてみたいと思います。

結論から言えば、私はこの問題を出すことに意味は無いと考えています。なぜなら、麻布中学校を受験する子供のレベルを考えると、この問題は簡単すぎるからです。

麻布中学校の国語の読解は大学受験並に難しいです。そのようなレベルの問題を受ける子供たちが、この程度の読み取りを落とすとは考えづらいです。(少なくとも自分の生徒だったら無いと信じたい……。)

では私は麻布中学校がこの問題を出したことを批判するかというと、そんなことはありません。

なぜなら、麻布中学校はそういう学校だからです。

これは高校でも同じかもしれませんが、私立中学の場合、上位校ほど校風が自由であるという傾向があります。そして、中でも麻布中学校は校風に「自由闊達」を掲げるほど自由な学校です、ほんとに。

なぜこの記事を書いたのか

私はこの記事の最初に「ちょっと気になった」と書きましたが、それは麻布中学校が「ドラえもん問題」を出したことについてではありません。

私が「ちょっと気になった」のは、むしろこの問題に反応している人たちでした。最初に取り上げたNAVERまとめのタイトルには「エリート達震え上がる」とありますが、この言葉は非常に象徴的だと思います。

多くの人は「麻布中学校を受ける子供=エリート=堅物」という風に捉えているのでしょう。しかし、私は麻布中学校を受験する生徒にも指導をしていましたが、実際の彼らは「エリート」「堅物」などではなく、本当に素直で鋭くて「面白いやつら」でした。

中学受験はとかくステレオタイプ的に見られがちですが、実際には様々な境遇や思いが交錯しているものです。これについては最近 中学受験にまつわる5つの誤解 というまとめを作ったので、興味のある人はこちらも見て下さいな。