辞めなかった子、あるいは辞めさせなかった母

以前私が指導していた生徒に、非常に成績の悪い女の子がいました。いまいち点数がふるわないというレベルではなく、テストの点数で一桁を出してしまうレベルの生徒でした。

彼女は塾の授業に全くついて行けていませんでした。一応話を聞いているふりをして、なんとか時間をやり過ごしているだけでした。また、勉強に対するやる気も既に失われていました。

私は彼女を不憫に思っていました。そして、何も出来ない自分に無力感を感じていました。

ある日、私の先輩講師が「もう無理だ。辞めさせよう。」と言って、彼女の家に電話をかけました。私は内心、安心していました。彼女が辞めれば自分の気が楽になるし、なによりも彼女が楽になれるだろうと思ったからです。

しかし、電話をかけている先輩講師の話を聞いていても、なかなか退塾の話は出てきませんでした。そしてそのまま数分話すと、先輩講師は電話を終えてしまいました。そしてこう言いました。「だめだ、母親は全然辞めさせる気が無い」と。

私は今でも不思議に思います。白紙に近いテストの解答用紙を見れば、彼女が塾の授業について行けていないことは明らかでした。それにもかかわらず、なぜ母親は自分の娘を塾に通わせ続けたのだろうかと。